『週刊少年ジャンプ』に連載が始まった『逃げ上手の若君』の舞台の1つは、鎌倉です。鎌倉時代末期から南北朝時代を描く、異色の時代設定。
漫画の舞台になる鎌倉周辺や、登場人物ゆかりの地を紹介しています。
龍神伝説と龍口 江ノ島の弁天様が関係していた!
主人公の若君(北条時行 ほうじょうときゆき)は、「龍口(たつのくち)で処刑されたとも(享年28歳)、伊勢国で生き延びたとも言われています。
その龍口は、鎌倉市ではなく、藤沢市に位置しています。
「龍口」という地名はとてもユニーク。調べてみると、面白い伝説を見つけました。
江島神社の由来を書いた『江島縁起(えのしまえんぎ)』です。
それによると、現在の湘南モノレール湘南深沢駅周辺には、かつて大きな湖があり、そこには「五頭竜(ごずりゅう)」とよばれる悪い竜が住んでいました。
天変地異を引き起こし、それをなだめるため、津村(鎌倉市腰越地域)に住んでいた長者は16人の子供を、次々と一人残らず竜に捧げる羽目になりました(怖)。
「子死越」と呼ばれるのは、生け贄の名残なのだとか(今は「腰越」(こしごえ)表記)。
そんな悪い竜でしたが、江ノ島に降臨した美しい弁天様に一目惚れ!
しかし弁天様は、今までの竜の悪逆非道な行いを指摘して求婚を拒否します。
湖に帰った竜は翌日心を改め、人間を守ることを誓って弁天様と結ばれたのだとか(3枚の写真は全て、江ノ島の岩屋で撮影)。
五頭竜は龍口山に姿を変えて津村や腰越村の守護神となり、竜の頭部が「龍口」と呼ばれるようになったというわけです。
北条時政と竜神伝説
来年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも登場する、主人公・北条義時やその姉・北条政子の父である北条時政。
『太平記』によると、彼は江ノ島に35日間参籠(社寺にこもって祈願すること)して、子孫の繁栄を祈りました。
満願の夜に美しい女性が現れ、「汝の前世は箱根の法師で、法華経の写経など善行を積んだため、再びこの世に生を得たのだから、子孫は末永く日本の主となって栄華を誇るがよろしい。ただしその行いが、政道と違うところがあれば、七代を過ぎずして滅びるだろう」と言い捨てて帰って行きます(写真は江ノ島岩屋で撮影したもの)。
時政がその姿を見ると、美しかった女性はたちまち大蛇(約60m!)の姿となって、海中に入ってしまいました。
女性が立っていた場所には、大きな鱗が3枚、落ちていたのです。
時政は祈願成就を喜び、3枚の鱗を家紋にしたのだとか。
北条執権邸跡に後醍醐天皇が、北条高時の冥福を祈って建立した宝戒寺にも、三つ鱗(みつうろこ)の家紋があちこちにありました。
北条高時のせいで、竜神は北条氏を見放した?
この竜神さまのお告げで気になるのが、「ただしその行いが、政道と違うところがあれば、七代を過ぎずして滅びるだろう」ということ。
執権で数えると、時政から7代というと、ちょうど8代執権になるのです。8代執権になった人は、この予言を知っていたのでしょうか?
そして8代執権というと、モンゴル来襲を退け、円覚寺も創建し、NHK大河ドラマになったあの北条時宗なのです。
しかし彼の時代には、北条氏は滅びていません。系図(第一学習社『最新日本史図表』より)を少し見てみましょう。
北条氏の本家(得宗 とくそう)の代数で数えると、ちょうど高時が、7代目なのです。
北条高時は、この予言を知っていたのかな? それとも後の時代の人々(『太平記』の作者など)が、自分たちに都合のいいような物語を作ったのでしょうか。
もしこの予言を高時が知っていたら、彼の人生はまた変わっていたのでしょうか? それともやけになって、結局趣味に逃避してしまうのでしょうか?
北条高時は天狗にたぶらかされて、闘犬や田楽にうつつを抜かし、一晩中踊り狂っていたと言われますが、これも「天狗のせい」とした方がすっきり納得できるからなのでしょうね。
知れば知るほど、北条高時は興味深い人物だなと思いました。
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