謡曲『雲林院』の登場人物 業平と公光を祀る祠
2025年2月9日(日)、同じ兵庫県にありながら、今まであまりよく知らなかった芦屋の名所旧跡を訪れる機会がありました。平安初期の歌人・在原業平(ありわらのなりひら)の父・阿保(あぼ)親王の墓と伝わる阿保親王塚古墳や、芦屋神社を訪れた後、次の目的地がある月若町へ。
住宅地の中(月若公園の近く)にある、小さな祠が目的地です。
提灯が目印ですが、ぼーっと歩いていたら、見逃してしまいそう。

道に面して建つ鳥居?の石の柱には、向かって右側に「業平大神」向かって左側には「公光大神」と書かれています。実はこの2人、謡曲『雲林院(うんりんいん)』に登場する人物。
中世の芦屋に、公光(きんみつ)という『伊勢物語』大ファンがいました。ある夜の夢に『伊勢物語』の主人公・在原業平と「二条の后」藤原高子(たかいこ)が現れ、夢の中で彼らがいた場所は、京都紫野の寺院・雲林院だと知った公光は、従者を連れて早速その場所を訪ねます。
雲林院は夢で見た通り桜が咲き誇り、公光が一枝折ろうとすると不思議な老人が現れ、花を折るのを咎めます。2人は言い争いますが、結局お互いの花を愛する風流心を認めて仲直り。公光がここに来た理由を語ると、老人はこの花の下で眠るよう勧め、自分は「昔男」(在原業平)だとほのめかして消えてしまいます。
花の木陰で眠る公光の夢に業平の亡霊が現れます。公光に請われるまま、業平の霊は二条后との恋など『伊勢物語』のことを夜通し語り、昔を思い出して舞を舞ったりするというストーリー。主役は在原業平(前半は老人姿、後半は霊)で、脇役は公光です。それにしても謡曲になるくらいだから、熱心な『伊勢物語』ファンは、鎌倉時代や南北朝時代には多かったのでしょう。
ちなみに、紫野の雲林院は、紫式部が晩年を過ごしたところとされています。桜と紅葉の名所として中世でも有名で、『大鏡』『今昔物語集』にも登場する、由緒ある寺院です。
祠のお供え 公光へのお供えならやっぱりこれ!
月若町にある2人を祀る祠は、

なかなか古そうで(筆で書かれた文字が消えかかっています)

参拝客は誰もいませんでした。地域の人々によって、何とか守られているのでしょうか。

参拝の為、祠に近づいて中をふと見ると、大きな祠(右)と小さな祠(左奥)があるのがわかりました。小さい方が、脇役の公光かな?

お供えの中には、当然のことながら『伊勢物語』(文庫本)もありました。鎌倉時代に『伊勢物語』の注釈本がかなり作られていますが、公光さんは、自分が学んだ鎌倉の注釈書と、現代の注釈を読み比べてみて、どんな感想を持つでしょうか。業平さんも、自分の恋愛がこんな風に伝わっているのだと知れば、作家や研究者の夢に、再度登場してもいいかも知れませんね。
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