前回は、「直虎男性説」を発表した井伊達夫さんが館長を務めている井伊美術館について、その来歴や入館料、アクセスなどの紹介をしました。
その時さりげなく、「中村達夫(現・井伊達夫)氏」と書きました。
井伊達夫さんは旧姓中村。つまり井伊家の婿養子です。
彦根藩士の子孫から与板井伊家の養子に
井伊(中村)達夫さんは現在74歳。
彦根藩士の子孫として、彦根市で誕生しました。
子供の頃から甲冑や歴史(特に井伊家の赤備え軍団など軍制)にとても興味があり、法律関係の仕事の傍ら歴史小説を執筆し、甲冑・刀剣・歴史などの研究をされていたようです。
やがて甲冑中心の古美術商を営み、私設美術館を開設。
著作や論文も多く、以前からマスコミにも登場しておられるようです。
そして2007年(平成19年)、井伊直政(直虎が後見した虎松。後の徳川四天王の一人)の長男・直勝の子孫である井伊修さんの婿養子になったとか。
直政の子孫も大変だった
井伊達夫さんが継いだ井伊家は、彦根井伊家に対して与板(よいた)井伊家と呼ばれています。
関ヶ原の戦い後井伊直政に与えられた佐和山藩(後の彦根藩)ですが
長男の直勝よりも弟の直孝の方が藩主としてふさわしいと徳川家康が判断。
井伊直勝は安中(あんなか)藩(群馬県安中市)主に封ぜられ、彦根藩井伊家の分家(支藩)という立場になりました。
井伊直勝は、直政の長男で生母は正室の花(徳川家康の養女)。
恵まれた立場にありながら病弱で、元々個性の強かった井伊家家臣団を父親の死後うまくまとめることができず、家臣団は分裂しました。
父親が偉大すぎたため、後継者の子供が苦労するパターンです。
それに対して異母弟の直孝(生母は側室)は、1614年(慶長19年)に大坂冬の陣が始まると、家康によって井伊家赤備え軍団の大将に指名されます。
徳川四天王・井伊直政の子として期待に応える働きをした直孝に、家康は正式に井伊家の家督を継がせました。
これが譜代大名筆頭の彦根井伊家(35万石)です。
大老・井伊直弼もこの家から出ました。
ちなみに手招きする猫に出会い、落雷の難を逃れたのがこの井伊直孝です。
このエピソードから、彦根のマスコットキャラクター「ひこにゃん」が誕生しました。
一方井伊直勝の子孫は、安中藩から西尾藩(愛知県西尾市)、掛川藩(静岡県掛川市)へと移封され、与板藩(新潟県長岡市)2万石の大名として幕末を迎えています。
そんな井伊家の歴史もすごいのですが、個人的にもっと驚いたことがありました。
井伊達夫さんが婿養子になった2007年って、今から10年前。
つまり64歳の時に、(大好きな)井伊家一族の婿養子になったということです。
人生色々なのですが、
これってある意味、井伊直虎の性別を巡る問題よりも、かなり興味深いのでは?
と、ついつい思ってしまいました。
「直虎男性説」とは
さて、今回の男性説発端となったのは、約50年前に井伊達夫さんが彦根市の古道具店で購入した
『守安公書記 雑秘説写記(もりやすこうしょき ざつひせつしゃき)』という史料。
昨年8月に内容を確認したところ、新たな事実が判明しました。
井伊直虎は女性ではなく男性であり、しかも今川家の当主・氏真(今川義元の子)から井伊谷に派遣された青年武将(今川重臣・関口越後守氏経の子)だとするのがその主張。
この関口氏経は、大河ドラマにも登場する次郎法師の母方の伯父・新野左馬助(にいのさまのすけ)の兄です。
ドラマでは苅谷俊介さんが演じられ、井伊家に好意を寄せるも今川家に反旗を翻した飯尾連竜(いいおつらたつ)討伐を命じられ、討ち死にしてしまいました。
大河ドラマでは、左馬助など井伊家に連なる男性がどんどん死んでいき、井伊家の男性は南渓(なんけい)和尚と幼い虎松しかいない。
とうとう次郎法師がおんな城主にとなる、という設定でした。
新しく発見された史料には、
- 「井伊谷の領地が新野左馬助親矩(ちかのり)の甥の井の次郎に与えられた」
- 「井伊谷は力を持った武士達が勝手に所領の取り合いをし、わがまま放題をして沈静化しないので、(氏真が)関口越後守(氏経)の子を井伊次郎とし、井伊谷の知行をあてがった」
という記述があったそうです。
関口氏経は、「直虎」の署名と花押がある唯一の史料である蜂前(はちさき)神社所蔵「井伊直虎関口氏経連署状」に署名している人物。
井伊達夫さんによると、
徳政令反対派の次郎法師(井伊家の姫君)が無理矢理徳政令に署名させられたのではなく、井伊次郎が父と連名で署名し、徳政令を出したと考える方が自然
だとのこと。
そのため「次郎直虎」と署名したのは、関口氏経の子だとされました。
同じ時代に、「次郎法師」と「井伊次郎」の2人がいたということになるのです。
なかなか面白く、説得力ある説のように思えます。
『おんな城主直虎』放映決定で史料の存在を思い出し、本腰を入れて内容確認したのかな?。
次回もこの話題を続けます。
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