前回は、「直虎男性説」の根拠となった『守安公書記 雑秘説写記』という史料について触れました。
この史料は、一体どういう性格のものでしょうか。
新野左馬助の娘達から聞いた話
井伊美術館の発表によると、この史料は
井伊家の重臣・木俣守安(きまたもりやす)が書き残した12冊の記録『守安公書記』の中の『雑秘説写記(ざつひせつしゃき)』。
守安が母(新野左馬助の娘)やその姉妹達、直政の母方の祖母から聞いた話をまとめたとされています。
新野左馬助は、次郎法師の母の兄。
今川の重臣で、次郎直虎(男性)とされる人物の父・関口氏経(うじつね)の弟です。
大河ドラマでは苅谷俊介さんが演じられ、今川の目付役なのに、井伊家に好意を持つ人物として描かれていました。
直親亡き後、虎松も殺害するよう命じた今川家に対し、命がけで助命嘆願します。
井伊直政には忘れがたい恩人のようで、曳馬(ひくま)城(現・浜松城)近くで討ち死にしたのに、彦根市の龍潭寺(りょうたんじ)にも彼の墓がありました。
左馬助は井伊直政の母方の祖父・奥山朝利(大河ドラマでは、でんでんさんが演じました)の姉妹と結婚し、7人の娘がいたようです。
その娘達の証言(当時かなりの高齢だったとは思われますが)なら、なかなか信憑性がありそうな気もします。
現在大河ドラマでは、光浦靖子さんが新野姉妹の長女・あやめを演じておられます。
新野屋敷で父が引き取った虎松母子の面倒を見、新野家をとりしきるしっかり者のあやめさん。
ドラマ本編よりも、直虎PR動画『女子会編』が余りにも面白すぎて独身イメージがありますが、他の妹たち同様、ちゃんと結婚されています。
そして新野7姉妹は、皆さん長生きしたそうです。
彼女たちの証言が、後々注目されることになるのですね。
不都合な真実?
- 井伊谷の領地が、今川家の当主・氏真(今川義元の子)から井伊谷に派遣された青年武将(今川重臣・関口越後守氏経の子)に与えられた。
- 関口越後守氏経の子が井伊次郎となった。
というのは、井伊家にとって葬り去りたい過去だったのかも知れません。
『守安公書記』では、他にも多くの事実が書かれていたとか。その中で一番衝撃的だったのが
井伊直親にゲス不倫疑惑?!
井伊直親は妊娠中の妻(奥山朝利の娘)を離別し、妻の兄の未亡人と不倫関係に。
これに怒った奥山朝利は、直親が徳川家康に内通していると今川家に訴えます。
その結果直親は、今川家に謀殺されてしまったというのです。
大河ドラマでは、三浦春馬さんが演じておられた井伊直親。
さわやかな笑顔が印象的な次郎法師の元許嫁ですが、
- 家老の小野政次に脱税の責任を押しつけようとしたり、
- 妻・しのとの間に子供が出来ないことを妻だけの責任にしたりと、
時々イラッときたりカチンとしたりすることも。
これじゃあ高橋一生さん(小野政次役)や貫地谷しほりさん(しの役)がダークになっていくのも仕方ない?という設定でした。
今回の発表が事実とすると、ますます井伊直親の人間性が疑われてしまいます。
息子の直政や井伊家にとっても面白い話ではなく、秘密にされたというのもうなずけます。
小野政次に度重なる冤罪疑惑!
また同じ史料によると、
- 井伊直親を謀叛の疑いありと今川家に密告したのも、
- 奥山朝利を殺害したのも、
井伊家の家老・小野政次ではなかったようです。
『井伊家伝記』では悪役の小野政次。
大河ドラマでは、次郎法師に想いを寄せるも、周囲の無理解や今川の圧迫などで、「井伊家の敵」となってしまいます。
ドラマを支える重要人物として、高橋一生さんが好演なさっているのはご存じの通り。
彼の人気が高いのも頷けます。
大河ドラマでは、正当防衛で奥山朝利を殺してしまいます。
「名探偵」井伊直親の推理により、彼の無罪は証明されました。
井伊家への裏切りも本心ではなさそうで同情を集めていますが、『守安公書記』の内容が事実なら、全くの冤罪であったわけです。
誰が何のために、小野政次を陥れたのでしょう?
番外編:小野政次の祟りがあった?!
『井伊家旧記』では、徳川方によって処刑された小野政次は怨霊となり、井伊谷の二宮神社の宮司・中井氏を祟ったと記されているとか。
潜伏していた小野政次を発見し、密告したのが中井氏で、その功績により、彼は二宮神社宮司家に抜擢されたという説もあります。
中井氏は鎮魂のため、井伊谷城三の丸にあった小野屋敷に「但馬明神」を建立。
この神社は井伊谷の新藩主・近藤氏が三の丸を陣屋としたときに取り除かれたけれど、二宮神社が現在地に遷座する際、神託によって鳥井横に「但馬社」が建立されました(現在は天王社に合祀)。
小野政次に同情を寄せる地元の人々がいたのでしょうか。
ところで「二宮神社」は、2柱の祭神を祀ったためにこの名が付いたとされています。
その祭神の1柱が多道間守(たじまもり)=但馬守(たじまもり)?=小野但馬守政次?
これは偶然の一致でしょうか。
ともあれ小野政次の霊も、この大河ドラマ人気で、きっと喜んでいるでしょう。
ドラマの中では冷静沈着で切れ者の政次ですが、奥山朝利の怨霊を、密かに気にしていたのが面白かったです。
政次さん、どうか怨霊などにならず、安らかに眠ってください。
次回もこの話題を続けます。
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