『空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎』で学ぶ日本史 消された橘逸勢の留学生活 

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映画に行こうかどうしようか迷う理由

空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎』という映画が、先週土曜日(2月24日)から封切になりました。

例によって、『世界ふしぎ発見!』でも「超人空海 塔留学の謎に迫る!」という関連番組が放映され、テレビや新聞のCMを見る機会も多いです。

華やかな映像を見ると面白そうだし、中国でも大ヒットしたようだし、行ってみたいなとも思うのですが、どうしても思いきれず今に至っています。

その理由は、原作の中で一番好きだった橘逸勢(たちばなのはやなり)という人物が、映画では出てこないからです。

『空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎』の原作とは

この映画の原作は、夢枕獏さんの『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』という小説。

最新版は映画の登場人物がカバーになっていますが、敢えて大好きな初版本の装丁で紹介します(これは第1巻)。

ハードカバー4巻という長編で、夢枕獏さんが17年の歳月をかけて完成させたのだとか。

この小説の中で、密教の力で「妖物」たちと対決する主人公・空海(若いのにかなりの野心家です!)の欠かせない相棒が、同じ日本からの留学生・橘逸勢でした。

ちょっとプライドが高くてひねくれているところもあるけれど、憎めない人で根は素直(よい漢=おとこ)。空海の考えている宇宙観や密教観は、空海と橘逸勢の対話を通して私達にも理解できるようになっています。

同じ夢枕獏さん原作『陰陽師』の安倍晴明と源博雅(みなもとのひろまさ)、はたまた名探偵ホームズとワトソン博士みたいに、とても仲のいい、息の合ったコンビでした。

ところが映画の場合、日中合作(監督はチェン・カイコー)ということもあり、空海の相棒は、中国の大詩人・白楽天に置き換えられてしまいました。

白楽天の日本版吹き替えはあの高橋一生さんで、それはそれで魅力があるのですが、でもやっぱり逸勢くんがいないのはつまらない。

私は昔から彼が好きだったのですが、映画の話題に影響されて最近原作を読み始めた同僚も、小説の中ではやはり、橘逸勢が好きだと言ってくれました。

もしかしたら、橘逸勢ファンは意外に多くて、映画にやきもきしているのかもしれませんね。

語学の壁!身につまされる橘逸勢の留学生活

学校の日本史の授業で登場する橘氏といえば、まず奈良時代(聖武天皇時代)の政治家・橘諸兄(たちばなのもろえ)が有名で、橘逸勢はそのひ孫にあたります。

祖父の橘奈良麻呂は奈良時代に藤原仲麻呂と対立して獄死

最澄や空海と共に、留学生として唐に渡ります。自らの才能で、橘氏を再び藤原氏と並ぶ強力な一族にしようという野心もあったのでしょうか。

ところが空海が中国語を流ちょうに操り、古代インドの言葉・サンスクリット語にも通じているという語学の天才なのに対し、橘逸勢は中国語の壁に苦しみます。

どうやら空海は、日本に渡来したネイティブ中国人僧侶について長期間中国語を学び、日常会話だけでなく仏教用語についても中国語で十分理解できるようになったようです。

でも橘逸勢はそういうネイティブ教師に恵まれなかったのか、漢詩漢文の能力はすごいけれど(リーディングとライティングはできる)、ヒヤリングとスピーキングがからきしダメだったようです。

このため、当初「儒学を学ぶ!」と意気込んできたのに、自由に儒学を学ぶことができませんでした。

日常会話は何とか通じるけれど、儒学という哲学を深く学ぶには、理念を言葉で表現し、理解する必要があります。どうしても教師の説明が必要になるでしょうが、それを彼は理解できなかったのです。

英語が苦手でどうしようもない私にすれば、橘逸勢の苦しみは他人事とは思えません。

今でも留学生を苦しめるのは、文系科目。日本からの留学生も、外国から日本へ来る留学生も、歴史や政治経済、倫理の授業は説明がよくわからず、難しいようでした。

一発逆転!語学ができなくても学べるもの

ここで橘逸勢は、当初の「儒学を学ぶ」という目的を捨て、語学の力がなくても学べる琴(きん)と書を学ぶことになりました。

書は、『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』にも登場する、中国の文人・政治家として有名な柳宗元(りゅうそうげん)に学んだようです。

この方針転換は結果的に大成功!唐人たちから「橘秀才(きつしゅうさい)」と賞賛されたのだとか。

帰国後は琴や書の第一人者となり、嵯峨天皇や空海と共に『三筆』の一人として、世に知られるようになりました。

この『三筆』の中で、橘逸勢だけ不幸な死に方をすることとなるのですが、それはまた次回にご紹介しましょう。

芸術や体育、家庭科の実習、数学や理科など、実技や数式、化学式などを重視する科目は、今でも言葉の壁に悩む留学生にとって、受け入れられやすい科目のようです。

語学の壁はなくなるのか?

ちなみに大学入試センター試験に代わって2020(平成32)年度から導入される「大学入学共通テスト」では、大学入試センターが出題する問題とは別に、英語に関して「聞く・読む・話す・書く」の4技能をすべて評価するため、外部の資格・検定試験を活用することになっています。

現行の大学入試が依然としてペーパーテスト中心で、センター試験でもリスニング問題が出される程度では、実質的に「聞く」「読む」の2技能しか問われないことを問題化しているのですが、どうしても普段使わない言語である外国語の習得は、日本人にとっては大きな壁。

「聞く・読む・話す・書く」の4技能をしっかり学べれば、誰でも外国語ができるようになるのでしょうか。

私は語学が全然だめなので、ドラえもんの秘密道具の「ほんやくコンニャク」の実現をひたすら待ち望んでいます。

翻訳こんにゃくはもう実現可能?!現代のすごい翻訳ツール6選(起業.tvサイトより)

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