早熟の天才・橋本左内 15歳で執筆した自己啓発書

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先日、神田外語大学准教授(日本近現代史)の町田明広先生の講演を、京都に聞きに行きました。

「西郷隆盛とその時代 元治・慶応期を中心に」 (その2)

2018年6月26日

「西郷隆盛とその時代 元治・慶応期を中心に」 (その1)

2018年6月25日

町田先生は、6月21日に放映されたNHK『英雄たちの選択 橋本左内 維新を先駆けた男 安政の大獄に死す!』にも出演され、収録時の裏話を聞く機会もありました。

収録では、町田先生はたくさんお話をされたのに、番組内で放送されたのはごく一部なんですね。

蘭方医から日本国の医者へ

橋本左内という人物には今までご縁がなく、福井藩士で、松平慶永の手足となって一橋慶喜擁立に尽力したけれど、安政の大獄で処刑されたということしか知りませんでした。

『西郷どん』で風間俊介さんが好演しておられ、一躍注目度がアップした橋本左内。

福井藩医の家に生まれ、16歳で大坂の適塾で緒方洪庵に蘭方医学を学び、19歳で父の跡を継いで藩医(外科医)となります。

21歳で江戸に遊学し、蘭方医学を学びますが、ペリー来航後の逼迫した時勢に接するうち、医学を離れたい気持ちが強まりました。

そして御書院番組に転じ、福井藩主・松平慶永の側近となりました。

藩政や国政に大きく関わるようになったのは、弱冠23歳の頃。

14代将軍に一橋慶喜を擁立し、幕政改革を訴えたことはよく知られていますが、幕藩体制は維持した上で、開国貿易・殖産興業・軍備強化などを目指した先覚者であったとされています。

大河ドラマでは、大柄で武骨で温かみのある西郷どんと対照的に、橋本左内は小柄で聡明でクールな人物として描かれました。

最初は対立していたけれど、やがて2人は一橋派の同志として、強い絆で結ばれます。

私が一番印象に残ったのは、「僕は医者ですが、この病んだ日本国の医者になりたいと思って生きてきた」という左内さんの台詞。

西郷隆盛は後に、「同輩としては橋本左内を推す」つまり同世代では最も優れた男として、橋本左内を評しました。

西郷が亡くなったとき、その胸元からは、橋本左内からの手紙が出てきたそうです。

1859年、左内は安政の大獄で捕縛され、伝馬町の牢屋敷で斬首されたのは、僅か26歳の時でした。

橋本左内 15歳の決意

この橋本左内について調べると、15歳の時に、大人顔負けの自己啓発書を書いているのにびっくり!

その名も『啓発録』。

それまでの生き方を反省し、今後の指針として5項目を定めました。

簡単に内容を紹介します。

1.稚心(子供じみた心)を捨てる

自分の好きな遊びや楽なことばかり追いかけ、怠惰な心を持ち、親に甘えてばかりいると、学問の上達を妨げ、武士としての気概も持てない。

2.気(負けず嫌いの心)を振るう

努力をしないで負けるのは恥ずかしいことであり、それを知って悔しく思い、頑張ろうと思う心を常に持つことが重要。

3.志を立てる

せっかくの頑張りも、目標がないと意味がない。高い目標を掲げ、いつもそれを眺めて自己を振り返り、足りないところを努力する。目標を見失わず、コツコツ努力すれば。どんな人でも必ず成長できる。そして、自分が少しずつ前進するのを楽しむことが大事である。

4.学に励む

優れた人物の素行を見習い、自らも実行する。こうして真に自分の知識を豊かにし、心を練り鍛え、自己の力を出し尽くして目的を達成するまで続けるということである。本を読んだりして知識を深めることは、学問の手段に過ぎない。

5.交友を択(えら)ぶ

友人は大切にしなければならないが、「損友」と「益友」の見極めが大事。人格の優れた「益友」には、自分から積極的に交わる。すぐに心安くなるが自分のためにならない「損友」がいたら、自分の力でその人の良くない面を、正しい方向へ導いてやらねばならない。

「15歳でここまで書くなんて!さすが天才!」「自意識高過ぎ!」など、色々な感想がありそうですが、さらに読んでいくと、自分が今までいかにダメな人間であったかが、書かれていました。

ダメな自分を克服するために、彼は、『啓発録』を書いたのです。

10年前の自分へ そして10年後の自分へ

24歳になった左内は、偶然、本箱の片隅に置かれて忘れられていた『啓発録』を読んだことが、この後書かれていました。

まるで、アンジェラ・アキの「手紙~拝啓十五の君へ~」のようですね。

24歳になった左内の目から見ると、『啓発録』の内容は浅薄だけど、反抗性や気概は15歳の頃の方が強かったと感じたようです。

『啓発録』の最後に左内は、10年後(34歳)の自分の心境、境遇はどうなっているだろうか、その時さらにこの『啓発録』を読み直して赤面せずに済むならば幸いである、と記しています。

34歳の左内さんに、読ませてあげたかったな。

今回の気づき 今に生きる『啓発録』

啓発録の内容を見ると、現代にも当てはまるものばかり。

「立志=目標を持つ」ことの大切さは、多くの人が知っていることだけれど、はっきりとした目標を描いている人は、案外少ないのかもしれません。

「優れた人物(成功者)を見習う」「実行することが大事」「良縁を増やし、悪縁を減らす」なども、今も多くの人から聞く言葉です。

福井県の中学校では、今も数え年の15歳(元服にあたる)になる中学2年生で「立志式」が行われ、橋本左内や『啓発録』について学ぶそうです。

学ぶだけでなく、生徒たちが『私の啓発録』を作るのだとか。

私も今年になって一念発起し、目標をたくさんノートに書いたけど、これもささやかな『私の啓発録』になるのでしょう。

10年後、そして20年後の私は、このノートを見てどう思うかな。

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