光秀が提供した「最後の晩餐」 翌日の朝食は?
1582(天正10)年、織田信長から安土城に招待された徳川家康を饗応するため、明智光秀が用意した献立の紹介も、今回で最後です。
『続群書類従(ぞくぐんしょるいじゅう)』という書物の中に、これらの献立は記録として残されており、ジャパンナレッジで読むことが可能なので、興味のある方は原典もご覧ください。
参考にしたのは、以前ご紹介した施設「安土城天主 信長の館」サイトです。
今回は、家康の安土城滞在2日目・5月16日の夕食。
記録に残る、家康に饗応された最後の膳です。
でも、備中高松城攻撃中の羽柴秀吉から援軍要請を依頼する書状が届き、光秀が接待役「解任(?)」(或いは任期満了)となるのは17日のはず。
普通なら、17日の朝食くらいは用意しているはずなのですが、どうして記録には残っていないのかな? 謎です。
戦国武将もおやつは食べたい!
今回は本膳~五膳、御菓子に加え、御点心、お供え肴まで出されています。
このうち、御点心は昼食あるいはおやつとして出された可能性が高いメニュー。
蒸し麦(温かいにゅうめん)、豆腐や椎茸の煮物、これに山椒やショウガ、かたのり(海苔)、杏仁(あんにん 杏の種子の中にある「仁」の粉末)の粉末類を添えて食べていたようです。まさに軽食ですね。
信長の「最後の晩餐」でも出された高級食品
本膳には、この日の朝食にも出された魚(鮭?)の塩漬け、雁と早生大豆の煮物、魚もしくは肉の炙り焼き、和え混ぜ、湯漬け(味噌漬けを添える)、ふくめたい、蒲鉾。
朝食に続き、美味な雁が再度登場!
和え混ぜは、儀式料理のメニューです。するめ、干しあわび等の魚介類を削り、湯にかけて戻し、もみ洗いし、煎り酒(日本酒に梅干しを入れて煮詰める)と酢で和えました。
ふくめたいとは、現在の田麩(でんぶ)。魚肉をゆでですりおろし、調味して煎りあげます。
この時代の蒲鉾は、竹の棒に筒状に巻いて作っていたそうです。竹を抜くと、ちくわのような形になります。今の蒲鉾(板蒲鉾)ができるのは、もう少し後。
白身の魚は高価なため、蒲鉾は大事なごちそう。本能寺で信長に出された「最期の晩餐」メニューにも入っていたそうです。
今でも蒲鉾は、おせち料理に欠かせませんね!
ほとんどの現代人は食べないあの鳥の肉も!
二膳には、からすみ、ゆでたタコ、ゆでたサザエ3つ、あつめ汁、鳥(もしくは魚)の串焼き、くらげの酢の物(花鰹をトッピング)。
からすみは私の大好物! ボラなどの卵巣を塩漬けした食材で、まるでチーズのような濃厚食感! このわた、ウニと並ぶ、日本三大珍味です。
あつめ汁は、いりこ(干しなまこ)、串あわび、麩、しいたけ、豆、甘海苔などを入れた具の多い汁。これ一品だけでも十分なごちそうです。
三膳はゆでた鱧の山椒味噌添え、白鳥の肉(塩漬け)タケノコ添え、鮒の刺身(小エビをトッピング)、のしもみ、鯉の味噌汁
鱧は夏の京料理に欠かせない食材だし、鮒は近江の名産、鯉は鯛よりも格上とされた魚です。
白鳥の肉も、現代の私達ならドキッとしますが、戦国時代にはよく食べられていたようで、料理好きのグルメ大名・伊達政宗が将軍に献上した自慢の一品も「白鳥の塩漬け肉」らしいです。きっとおいしいのでしょう。
のしもみは、あわびの肉を薄くはぎ乾燥させ、これを小さく切り塩でもみ柔らかくした料理だそうです。
与膳は数の子、百菊焼き(鳥の砂肝をたれ味噌に漬け、焼いたもの)、青鷺の汁、瓜もみ(きゅうりもみの瓜版)。
青鷺は夏から初秋にかけて味が良く、味噌汁やすまし汁になったとか。
五膳は鴫の羽盛り(飛ぶ形に盛り付け)、鯨の尾とウドの味噌汁、ばい貝。
戦国武将は、いろいろな鳥の肉を食べていたのがよくわかります。
また鯨は、鯉よりさらに格上とされ、肉は塩漬けにされていたそうです。
豪華なデザート・羊羹を食べながら酒盛り?
御菓子には貴重な砂糖を使った羊羹、かち栗(乾燥させた栗)、くるみ、ぶと(揚げ菓子)、花煮昆布(昆布を軟らかく煮て花型に切ったもの)、おこし米、のしあわび。
ぶとは奈良時代から伝わる揚げ菓子で、今でも製造している和菓子屋さんがいくつかあるようでした。
おこし米は、雷おこしや岩おこしなど、今でもよく見かけますね。
普通ならここで膳が終わるのですが、今回は送別会なのか?さらにお酒を勧めるために「お添え肴」が出されました。
羊羹などの酒の肴にならないものを出す時には、別に肴を添えて出したそうです。羊羹を食べ、添え肴を食べて酒を飲みました。
肴のメニューは橘焼き、角盛り、鯛のあつもの(たれ味噌煮)、壺盛り、折箱いろいろ。
橘焼きは、クチナシで黄色に染めた魚のすり身をたれ味噌の中で煮たもの。
角盛りは、骨、皮を取り去ったカツオを角切りにして、酢煎という煮物にしたもので、前日の晩御膳に「鯛のあつもの」とともに登場しています。
それにしても、最後にまた家康の好物・鯛が登場。
光秀のもてなしは、やはり相手のことをよく理解する細やかな気配りに満ちたメニューでした。
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