記録に残っていた接待の献立
前回紹介した、明智光秀の徳川家康接待事件。
実はこの時徳川家康に出されたメニューは、『続群書類従(ぞくぐんしょるいじゅう)』という書物の中に記録として残されています。
この『続群書類従』というのは、江戸時代後期に活躍した盲目の国学者・塙保己一(はなわ ほきいち)が、古い記録や文書が散り散りになって失われるのを怖れ、幕府や公家・寺社・諸大名などの協力を得てまとめ上げた一大シリーズ『群書類従(ぐんしょるいじゅう)』の続編です。
ちなみにジャパンナレッジで読むことが可能だそうです。
記録が残っているおかげで、献立が再現されることもあり、戦国時代の宴会の様子がある程度わかるのが面白い。
記録って大事だなとつくづく思います。
5月15日の「おちつき膳」 光秀は鮒ずしも出していた!
さて、今回ご紹介するのは、安土城到着後の家康に最初に出された料理で「おちつき膳」というもの。
参考にしたのは、以前ご紹介した施設「安土城天主 信長の館」サイトです。
本膳・二膳・三膳・与(四)膳・五膳・御菓子が出され、まさにフルコースといえるでしょう。
最上級のもてなしということがわかりますね。
1 本膳
ご飯と青菜の汁、メインのおかずは鯉の膾(なます お刺身、もしくはお刺身を酢で味付けしたもの)、そして家康の好物で縁起がいい鯛を焼いたもの。ちなみに、家康は鯛の天ぷらの食べすぎが死因と言われています。
青菜の緑、タコと焼鯛の赤と彩りもよく、野菜(香の物=お漬物もあり)と魚で栄養バランスもOK。
注目すべきは(少量出されたであろう)鮒ずし。
内蔵を取って塩漬けにした鮒の身の中に飯を詰め、発酵させる近江の伝統料理ですが、独特の発酵臭がします。
台湾料理の臭豆腐(くさどうふ)や加熱前のクサヤの干物よりも、ニオイ成分は多いのだとか(上手に漬けてあればそんなに臭わないそうです)。
信長が「魚が腐っていた」と激怒したのは、この鮒ずしの匂いではないかと、勝手に思っていたのですが、どうなのでしょう?
初心者にはハードルが高いけれど、安土城や坂本城では、案外普通に食べていたかも知れませんね。信長も含めて。
とにかく、「我らが近江の国の名産品をお出ししよう!」という、光秀の積極的な接待ぶりが伺えます。
2 二膳
うるか(鮎の内臓や卵の塩漬け)、うなぎの醤油ダレ焼き、ホヤの冷やし汁、干しなまこと長芋の味噌煮、アワビと鱧(はも)、鯉の汁物と、海の珍味が並びます。
酒の肴にぴったりな料理ばかり! 美味しそう! しかもアワビは縁起がいい食べ物です。当時貴重品だった醤油も使われています。
アワビと鱧は調理法がわからないのですが、お刺身かも知れません。
鱧なんて、今でも夏の京料理には欠かせません。季節感があっていいですね!
3 三膳
雉の焼き鳥、鶴と山の芋の汁物、ワタリガニ、ニシ(巻き貝)鱸(スズキ)の汁物。
これもタンパク質中心の豪華な料理。
当時は「焼き鳥」と言えば雉だったそうで、塩焼きかクルミ酢で食べていたそうです。
鶴も当時はセレブ用の食材として知られ、細く切って塩漬けにした肉を調理したそうです。
気になったのがワタリガニ(ガザミ)の調理法。一番お見合いで出してほしくない料理と言われているカニ料理ですが、いくら何でも、バスツアーのように一匹どーんとそのまま出てこないよね?
ちゃんと誰かが殻をむいて、食べやすくしてくれていますよね?
信長や家康、光秀らが、無口になって必死にカニと格闘している光景は見たくありません。
4 与膳
巻きするめ、鴫壺(しぎつぼ)、鮒汁、しいたけの煮しめ
鴫壺とは、ナスの真ん中をくり抜き、酒で炒った鴫という鳥(千鳥の仲間)の肉を入れてわらで巻き、石鍋に入れて酒煮にした手の混んだ料理です。
するめは縁起物。鮒は近江の名産品で、ここにも光秀のおもてなし精神が伺われます。
5 五膳
まながつお刺身(醤油ではなく生姜酢で頂きます)、ごぼう(煮物あるいは酢の物)、鴨の汁、削り昆布
鴨の狩猟シーズンではないので、塩漬けの鴨を出したようです。
まながつおは、海のない近江の国ではどうやって新鮮なものを調達したのでしょうか。
きっと最高級の珍味に近かったのではと思われます。
6 御菓子
羊皮餅(ようひもち 今の大福餅みたいなもの?) 炒った大豆を水飴で絡めた豆飴、美濃産の柿、昆布を柔らかく煮て花形に切った花昆布、梅の薄皮で作った飾りの花(から花)
食後のデザートも何種類もあって、豪華ですね!
柿が大好きな私としては、この華やかな膳に、柿もデザートの重要食材として使われていて嬉しいです。
若き日の信長が、うつけ姿で食べていたのも干し柿だったかな?
とにかく豪華な料理で、光秀の奮闘ぶりがよく分かるメニューでした。食べてみたいです!
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